雨に煙る西縦貫線
それに気付くまで、そんなに時間はかかりませんでした。
親子オリエンテーリングという幼稚園行事に参加のため、いつもより2時間ほど遅れて走った通勤路。
小雨の振る中、フロントガラス越しに見えたのは、傘もささずに自転車を走らせる女の子。
今にも立ちこぎせんばかりの勢いで、雨宿りもせずに必死にペダルをこいでいます。
おれが奇妙だと思ったのはその後ろに座っていたもう1人の女の子でした。
白いワンピース姿の彼女は荷台に女の子座りで、傘をさすでもなく、体をすぼめるでもなく、ただ雨に濡れながら真っ赤なリンゴを丸かじりしていたのです。
考えた時間は2秒。
ああ、前の子は自分の後ろに人が座っていることに気付いていないんだな。
と言うか後ろの子は多分おれにしか見えてないんだろうな。
そのことに気付いた瞬間、心なしか雲間から光が差し込んだように見えました。
その光の中にリンゴの子が静かに消えて行ったのかどうかは、もうバックミラーのはるか向こうのことでおれには分かりませんでした。
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